一般社団法人ScTNの概要
一般社団法人 School Transformation Networking(ScTN)は、初等中等教育において、公教育の本質である「各人の自由及び社会における自由の相互承認の実質化」のため、「一般福祉(一般意志に基づく普遍福祉)」を正当性の原理とし、学術の諸理論とデジタル技術を利活用することで、「学びの構造転換」に関する取組を支援します。
また、「哲学原理とエビデンスに基づいた実践/政策(P-EBP: Philosophical principles and Evidence Based Practice / Policy)」のエコシステムを構築し、学校・教育委員会・大学・研究機関・企業等の協働ネットワークの架け橋になります。
ミッション
- 全ての人の思いと願いの下、自由と自由の相互承認に基づく公教育を実現する。
ビジョン
- 教育学や心理学をはじめとした学術の諸理論、ICTや教育データに代表されるデジタル技術を利活用することで、初等中等教育における主体的・対話的で深い学びへの構造転換を支援し、全ての学習者が自分らしく、かつ互いに高め合って学んだり生活したりすることのできる教育を実現する。
- さまざまなスタディログと連携することで、哲学原理とエビデンスに基づいた実践/政策(P-EBP)のエコシステムを構築し、学校・教育委員会・大学・研究機関・企業等の協働ネットワークの架け橋となる。
活動
- 主体的・対話的で深い学びを実現するための原理‐実践理論‐実践方法(事例)の体系的な研究
- 学習者の資質・能力の変化を主体的・対話的で深い学びの経験と関連付けて把握するためのパラメータ(基礎理論)とアセスメント(測定方法)の開発
- 研究・開発や研究人材育成のためのグループ及びネットワークの設立及び運営
- 研究・開発の成果を普及するための講演、情報提供、出版等の活動
- 学びの構造転換、ひいては公教育の構造転換を実現するための啓発活動
役員
代表理事 山口 裕也(独立研究者)
独立研究者、主な研究領域は心理学、教育学、哲学。博士課程在学中だった2005(平成17)年から研究員として基礎自治体の教育委員会に在籍し、その間、大学の教育学部非常勤講師を務めるなどして2023(令和5)年4月に独立、哲学者・教育学者の苫野一徳氏と共に一般社団法人School Transformation Networkingを設立した。ScTN質問紙(主体的・対話的で深い学びのための意識・実態調査質問紙)の著作者・著作権者でもある。主な著書に『教育は変えられる』など。
理事 苫野 一徳(熊本大学大学院教育学研究科・教育学部准教授)
哲学者、教育学者。教育とは何か、それはどうあれば「よい」といいうるかという原理的テーマの探究を軸に、これからの教育のあり方を構想。公教育の本質は「自由の相互承認」の実質化にあるとし、具体的なあり方として「学びの個別化・協同化・プロジェクト化の融合」などを提唱。主な著書に『どのような教育が「よい」教育か』『教育の力』『「学校」をつくり直す』『学問としての教育学』『愛』『「自由」はいかに可能か』など。
ご挨拶
初等中等教育における「学びの構造転換」を実現するため、2023年4月、「一般社団法人School Transformation Networking」を設立いたしました。
「ScTN(スクタン)」と略称する当法人では、教育哲学の知見に基づいて事業を展開してまいります。具体的には、公教育の「本質」と「正当性の原理」に基づき、教育学や心理学をはじめとした学術の諸理論と、ICTや教育データに代表されるデジタル技術とを利活用することで、学校や教育委員会の学びの構造転換に関する取組を支援していきます。
1 問題意識
我が国の初等中等教育においては、ここ数年、学びや教育の在り方を根本から考え直す取組が広がっています。2017(平成29)年3月の学習指導要領改訂、2019(令和元)年12月から始まったGIGAスクール構想、さらには2021(令和3)年1月の中央教育審議会答申「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して」等を受けたものであり、当法人では、このような取組を「学びの構造転換」と総称しています。
私たちは、これまで、日本全国の様々な学校や教育委員会が取り組む学びの構造転換を支援してきました。その経験から、取組の着実な進展を成果として目の当たりにする一方、課題を感じていることも確かです。
たとえば、個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実や、そのためのICTや教育データの活用は、学びの構造転換の中核を成す取組と言っていいでしょう。しかし、これらは、何のための取組なのでしょうか。どのような在り方であれば、それを「よい」と言うことができるのでしょうか。
一例として、著しい分断と格差を生み出す学びの個別最適化や、逃れられない同調圧力と排他・排斥につながる学びの協働化を促す教育があった場合、私たちは、そのような在り方を肯定することはできないはずです。しかしながら、私たちは、このような場合でさえ、その根底において何を基準に「よくない」という判断を行っているのでしょうか。
ICTと教育データの活用も同様です。これらの取組には、学びの構造転換の実現を支える教育DX(デジタルトランスフォーメーション)の一環として大きな可能性を感じる一方、拭うことのできない幾つかの懸念があります。
具体的には、デジタル教科書やAI型ドリル学習材、協働学習や探究学習等の支援ツールから収集される学習ログやテストデータはもちろんのこと、いわゆるフィジカルデータと呼ばれる児童生徒の表情や姿勢、発言や活動量、同じく教師の表情や発問・指導言、机間指導の頻度や個々に対する支援時間の記録。さらには、これらから自律計算によって生成される学習効果・教育効果の予測モデルや、このモデルに基づく学習方法・教育方法のレコメンド、ひいては、地域の経済や文化、社会関係に関する資本までも考慮した教育政策の形成、いわゆるEBPM(Evidence Based Policy Making)に至るまで。
これらは、一つ間違えれば、「よい」教育とは正反対の方向に進んでしまう可能性(危険性)を否定できません。近年、社会的にも広く認知されるようになったポリジェニックスコアや生成系AIが教育実践の現場で日常的に使われる日もそう遠くないとすれば、この懸念はなおさら深いものになります。
しかし、逆説的には、次のように考えることもできるはずです。そもそも公教育とは、私たちの生きるこの市民社会において何のために在るのかという「本質」と、どうあれば「よい」のかという「正当性の原理」の両者にかなうという意味で技術やデータを”利”活用できれば、学びの構造転換を、よりよく、しかも、大きく進展させることができる、と。
私たちの問題意識は、まさにここにあります。まず、公教育の本質と正当性の原理とを、時間や場所、価値観の違いを超えてみなが納得できるよう定める。その上で、あらゆる取組の意味や価値を、公教育の本質と正当性の原理に照らして絶えず検証しながら学びの構造転換を進めていく必要があるということです。
2 目的と事業
そこで、当法人では、公教育の本質に「各人の自由及び社会における自由の相互承認の実質化」を、正当性の原理に「一般福祉(一般意志に基づく普遍福祉)」とを据えた上で、初等中等教育をフィールドに、主体的・対話的で深い学びへの構造転換を支援する事業を展開してまりいます。
これは、私たちが提唱する「哲学原理とエビデンスに基づいた実践(Philosophical principles and Evidence Based Practice: P-EBP)」を自ら実践するものでもあります。P-EBPは、従来のEBP(Evidence Based Practice)やその一つであるEBPMを包摂し更に底から基礎付けるものであり、ここで重要なことは、哲学原理が、エビデンスに基づく実践やエビデンスそれ自体の意味と価値を判断する基準になるという意味で根底に位置付けられていることです。
P-EBPの具体的実践として、当法人では、学術の諸理論とデジタル技術を利活用しつつ、「全ての学習者が自分らしく且つ互いに高め合って学ぶ教育」の実現を目指します。行動遺伝学や進化心理学の知見を踏まえるなら、各人の自由を実質化するためには、これからの学校教育の最低保障ラインを「誰もが自分らしく学び生活することを妨げられない学校」に置く必要があると考えるからです。社会学や政治学の知見を踏まえるなら、市民社会における自由の相互承認のより一層の実質化のためには、「全ての学習者が互いに認め合い、高め合って学ぶ教育」までも視野に入れた取組が欠かせないと考えるからです。
しかしながら、もう一つ、とても大切なことがあります。学びの構造転換や教育DXを通して目指す姿は、学校での学びや生活の主体となる子どもたちを含め、多くの教育関係者と対話しながら具体化していく必要があるということです。公教育の正当性の原理の一つである一般意志が「全ての人の利益にかなう合意」を意味する以上、「よい」公教育を実現する上でこのプロセスを欠かすことはできません。
そこで、当法人では、学びの構造転換を支援する事業のみならず、「一般社団法人」が有す法人としての公共性を最大限に活用し、学校や教育委員会はもちろんのこと、大学、研究機関、企業等の協働ネットワークの架け橋となることでP-EBPのエコシステムを築くとともに、学びを支える人材・組織や施設・設備、さらには行財政までも含めた「公教育(全体)の構造転換」の姿もまた描き出していきたいと考えています。なぜならそれが、公教育のもう一つの正当性の原理である普遍福祉、すなわち、「全ての人のよき生」の促進と拡大につながると考えるからです。
当法人の名称である「School Transformation Networking」の”net-working”には、私たちのこのような思いを込めました。
上記の旨をご理解いただき、多くの方のご協力とご参画のほど、よろしくお願い申し上げます。また、設立に合わせて、「ScTN質問紙(主体的・対話的で深い学びのための意識・実態調査質問紙、児童生徒による自己評価方式)」をリリースいたしますので、ご活用いただければ幸いです。
2023年4月14日 山口裕也 苫野一徳 関係スタッフ 一同
組織
名称 | 一般社団法人School Transformation Networking(略称:ScTN〈スクタン〉) |
設立 | 2023年4月14日 |
役員 | 代表理事:山口 裕也(独立研究者)
理事:苫野 一徳( 熊本大学大学院教育学研究科・教育学部准教授) |
住所 | 〒104-0061 東京都中央区銀座一丁目22番11号 銀座大竹ビジデンス2階 |
沿革
2023年
4月
- 法人設立
- ScTN質問紙(主体的・対話的で深い学びのための意識・実態調査質問紙)の公開
5月
- ScTN質問紙が文部科学省提供の公的CBTプラットフォーム「MEXCBT」に掲載
11月
- ScTN質問紙「+1(多重知能)」パッケージの公開
2024年
1月
- ScTN質問紙「+1(多重知能)」パッケージがMEXCBTに掲載
※作成中