P-EBPの概要
哲学原理とエビデンスに基づいた実践/政策(Philosophical principles and Evidence Based Practice / Policy)は、一般社団法人School Transformation Networking(ScTN)が提唱する、教育の実践/政策をよりよく確かなものにするための考え方です。
P-EBPと略称するこの考え方は、「そもそもエビデンスは何のために在るのか、何をどのように取得したり活用したりすることが『よい』のか」という問いに対して普遍的な回答を提示するために、「教育の実践/政策の根拠となるエビデンスの意味と価値は、公教育の本質と正当性の原理に基づいて規定される」という考えから組み立てられています。
具体的には、公教育におけるエビデンスを、「ある教育の実践/政策が『各人の自由及び社会における自由の相互承認の実質化』と『一般福祉』の促進にどの程度かなうのかということについて、共通了解可能な仕方で説明したり判断したりするための素材の全て」と定義しています。よって、大規模な調査や条件制御の下で得られた教育データ、さまざまなコンテンツに蓄積されていく学習ログはもちろん、実践者の直感や経験則なども、公教育の本質と正当性の原理に基づく限り排除されず、エビデンスとして有効活用する道が開かれます※1。
※1 公教育の本質及び正当性の原理については、次の文献をご参照ください。 苫野 一徳(2011).どのような教育が「よい」教育か 講談社
P-EBPの詳細
P-EBPは、近年、教育の現場で重視されているエビデンスに基づいた実践(EBP: Evidence Based Practice)や、その派生であるエビデンスに基づいた政策決定(EBPM: Evidence Based Policy Making)への懸念を理由の一つに提唱した考え方です。
内容としては、「そもそもエビデンスは何のために在るのか、何をどのように取得したり活用したりすることが『よい』のか」という問いに対して普遍的な回答を提示し得なかったEBPやEBPMの問題を克服するために、「教育学のメタ理論体系」に基づき、教育学の三部門を応用的に組み合わせています※2。
すなわち、エビデンスの取得や活用はもちろん、エビデンスを根拠とした教育の実践/政策は全て、公教育の本質である「各人の自由及び社会における自由の相互承認の実質化」と正当性の原理である「一般福祉(一般意志に基づく普遍福祉)」にかなうよう行われる必要がある。
当法人の提供・管理下にある「ScTN質問紙(主体的・対話的で深い学びのための意識・実態調査)」やその基礎理論である「目的‐方法パラメータ」は、P-EBPの考え方を具体化した事例に他なりません。
哲学原理をエビデンスと実践/政策の両者に先行させるP-EBPによって、(1)具体的な手だてや施策を明確な指針に基づいて構想できるようになるとともに、(2)構想の過程や結果の妥当性を共通了解可能な仕方で説明したり判断したりするための素材は、全てエビデンスとして活用できるようになります。
先生方や学校管理職は、この考え方によって、EBPやEBPMでは軽視されがちだった直感や経験則についても、その共通了解可能性を示すことができれば※3、学習指導や生徒指導をはじめとした実践の手だてを根拠付けたり批判的に吟味したりするエビデンスとすることができます。
また、教育委員会(学校設置者)は、取得自体に賛否のあるフィジカルデータやポリジェニックスコアの取扱いを政策として決定する必要に迫られたとしても、そのための協議を、そもそも公教育は何のために在るのか、どう在るのが「よい」のかという根本にまで遡って行うことができるようになります。
※2 「教育学のメタ理論体系」及び教育学の三部門については、次の文献をご参照ください。 苫野 一徳(2022).学問としての教育学 日本評論社 ※3 この点について、科学性を担保しながらいかに共通了解可能性を示すことができるかについては、苫野(2022)※2の第3章をご参照ください。