学びの構造転換の更なる実現を支援するワークシートの公開についてのお知らせ
当法人においては、「全ての人の思いと願いの下、自由と自由の相互承認に基づく公教育を実現する」というミッションに基づき、「学びの構造転換に関する取組の支援」をビジョンの一つに掲げています。
このたび、ワークシートを二つ公開しましたのでお知らせします。いずれも、当法人に支援の依頼をくださった自治体や学校、先生方などと共有してきたものです。今回の公開によって、誰でも自由にお使いいただけるようにしました※1。
■ワークシート1 ScTN質問紙(ライト)の活用 ワークシート1は、当法人の提供・管理下にある「ScTN質問紙」※2に関するものです。主体的・対話的で深い学びへの構造転換に当たってもっとも基礎になる学習経験を内容の中心とした、ライトパッケージが基になっています。
具体的には、児童生徒に回答してもらった調査結果や先生方の自己評価を書き込み、実践や政策について検討できる構成としています。
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■ワークシート2 学びの構造転換の3+1ステップ ワークシート2は、学びの構造転換の考え方をステップ化したものです。3+1のステップから成るものであり、「最大限の自由に必要十分=最小限の制約を設ける(必要十分=最小限の制約を設けることで自由を最大化する)」ことを考え方の基軸としています。
このワークシートを作成・公開した背景には、二つの明確な問題意識があります。
一つは、ScTN質問紙の公開から約1年となった2024年3月末時点で、MEXCBTを通した実施分のみでも75自治体・487校にご利用いただいたことと関係します。数例ではありますが、学習経験のうち「個性化した学習」と「内発的な協同」を趣旨とした質問項目の結果が、先生方のマインドセットの転換や自由進度学習の日常化をはじめとした実践を伴って高い水準にとどまる事例が出てきたことです。
こうした事例では、実態として、最大限の自由の保障による社会的な包摂性と内発的な動機づけの高まりも確認ができています。他方、「状況に埋め込まれた学習」や「内発的な探究」、「挑戦的集中」や「協同の活用」を趣旨とした質問項目の結果がなかなか改善・向上しないという課題が共通して見られていました。
もう一つは、一つ目の問題意識の延長線上にあることです。個別最適な学びや深い学びはもちろん、「協同最適な学び」や「深い学び合い」を実現するためには、改めて、教科等の知、とりわけ学習指導要領等が定める目標と内容の研究が必要になるということです。
当法人では、協同最適な学びや深い学び合いが、共同性を前提した能力観や、その下で育む相互依存的なウェルビーイング/幸福にとって欠かせないと考えています。このことも、ワークシート2の作成と公開を後押しする理由になりました。
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■作成・公開の背景にある問題意識 具体的には、以下のようです。
(1)目標・内容と方法の関係 方法(の自由)は、本来、それに先行する目標と内容によって規定(制約)されます。しかし、とりわけ学びの構造転換の初期においては、忙しさや余裕のなさもあり、全てを自分で考えることが難しい状況にあるのではないでしょうか。
この時、基本的な展開や代表的な手だてがパッケージ化され、名付けのされた方法論は、大きな支えになります。
例えば、先ほども例に挙げた自由進度学習。あるいは、プロジェクト型学習や概念型学習。さらには、サークル対話や教室リフォーム、ルールメイキング。
豊富な先行事例も、重要な手掛かりを提供してくれるでしょう。
しかし、こうした方法論も、最初は、当該の学年や教科、単元等における目標と内容、何より目の前の児童生徒の状況に応じて意図的に創り出された展開や手だての一つであったはずです。言い換えれば、私たちが現在知ることのできる方法論の多くは、事例を積み重ねる過程で具体的な状況を離れ、校種さえも超えて一般化されていった過去があるということです。
このことは、程度差こそあれ、いわゆるオルタナティブ教育についても同じことが言えます。
例えば、モンテッソーリやシュタイナー、フレネ。あるいは、サドベリー、ドルトンプラン、レッジョ・エミリア。
一例を挙げると、イエナプラン教育においては、4つの基本活動に基づいたリズミックな時間割、ファミリーグループやリビングルーム、生と学びの共同体といった特徴が、「授業技術として切り取られて理解されるべきもの」ではなく、あくまで、「理念を実現させるための斬新な工夫」であるとされます※3。この考え方は、目標・内容(理念)なき方法(授業技術やその工夫)の適用や過度の一般化を一定抑止しようとするものと言えるでしょう。
私たちは、この当たり前の事実に改めて立ち返る必要があると考えています。少なくとも、あらゆる方法(論)は、目標と内容に応じて自覚的に選び取る必要がある。できることなら、児童生徒の状況に応じてよりふさわしい展開や手だてを創り出すことが望ましい。
否定的な意味においての形式的・表面的な方法の模倣とは、目標と内容、さらには児童生徒の状況の十分な研究がないままに既存の展開や手だてをなぞり続けることに他なりません。
(2)ワークシートによる方法の考え方の可視化 では、具体的に、何を、どのように考えて展開や手だてを構想すればよいでしょうか。この思考過程を可視化したものが、ワークシート2、中でもステップ2です。
まず、働かせるべき見方・考え方は、どのようなものか。その下で育成を目指す資質・能力は、学びや人生、社会においてどのように生きて働き、また、どのように未知の状況にも対応できるものとなるか。両者の系統性、例えば幼児教育から義務教育9年間を通したつながりには、つまずきや学び残しが発生しやすいポイントがあるのか。
次に、学習内容の特徴を踏まえると、例えば実際の学習における内容の順序は、(全てを)指定するのか、それとも(一部を)自己決定に委ねるのか。それぞれの内容は、どんな学習活動を通して取り扱われることで、働かせるべき見方・考え方が実際に働き、また、目指す資質・能力の育成に迫ることができるのか。
さらに、(ステップ1において)一人一人に学び方や生活の仕方に関する最大限の自由を保障しながらも、自由の相互触発に基づく深い学び合いのために、教員が計画的に組み込むべき協同はないか。組み込むとすれば、協同最適なグループとして、ランダム性を重視した生活班を基本にするか、それとも学習ログをエビデンスに同質/異質がほどよく混ざり合うものとするか。
最後に、その上で、教員は、何のために、何を、どのようなタイミングで、どの程度、どのように教えるのか。
今、求められている学習者/生活者主体を追究すれば、授業や学校生活が真の意味で一つとして同じにならないことを、多くの方が実感されているのではないかと思います。よって、目標と内容の研究に基づく方法の意図的・自覚的な選択/創出は、今後、その重要性をよりいっそう増していくと考えています。
(3)学習指導要領等の近未来を見据えて 公開した二つのワークシートは、以上の問題意識の下に作成したものです。
言葉を補って改めてまとめると、授業や学校生活において最大限の自由を保障するために、私たちのマインドセットの転換こそが必要になるとすれば、必要十分=最小限の制約を設けるためには、近代の学校教育において培われてきた教科等の知を学習者/生活者主体の文脈に置き換えて活用する教育技術が求められる、ということです。
このことを踏まえ、ワークシート2には、目標・内容によって方法の自由に必要十分=最小限の制約を設けるガイドとなるよう、補助説明付きのものと記入例を合わせて示しました。これらは、教科等の知に基づくことで、目標の水準が最近接発達領域に位置する適度に挑戦的なものとなり、また、学習内容が人生や社会のリアルな状況と近似した同型の状況に埋め込まれていくことによって、ScTN質問紙における状況に埋め込まれた学習や内発的な探究、挑戦的集中や協同の活用を趣旨とした質問項目の結果が改善・向上することを期待するものでもあります。
付言しておくと、今回のワークシートは、学習指導要領等の近未来を見据えたものでもあります。具体的には、学習指導要領等が定める目標と内容が、教えの事項ではなく学びの事項としての構成・表現を重視したよりシンプルなものになり、教員と児童生徒、さらには保護者との非対称性を脱構築していく。そのことで、三者が合意しながら編成していく本来の意味での「学びの地図」としての教育課程、その参照基準となる姿です。
こうした未来の姿を見据えつつ、例えばワークシート1を活用し、自分の指導や支援について振り返ることで、よりよくできそうな点を見いだす。ScTN質問紙(ライト)を実施し、ワークシート1を活用して改善策を講じた結果、幾つかの項目の結果が高止まってきたから、ワークシート2を活用する。など、二つのワークシートをさまざまな形でご活用いただければ幸いです。
■アクセス用QRコード (1)ScTN質問紙(ライト)の活用
(2)学びの構造転換の3+1ステップ
※1 ワークシートは、クリエイティブ・コモンズ 表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際 ライセンスの下に提供しています。本ライセンスの条件に従う限り、誰でも、自由にご利用いただけます。 ※2 ScTN質問紙については、当法人公式ウェブ内の解説ページ(こちら)をご覧ください。 ※3 リヒテルズ 直子・苫野 一徳(2016).公教育をイチから考えよう 日本評論社 p.63